黒い少年の話
彼は誰かに裏切られる度に
それ以上にその人を裏切って
裏切った事を後悔させるようにしていた
目的は何かと問われれば
自分が生きる為と応える
僕は記憶が鮮明すぎて
辛い記憶を遺しておくと
それに殺されてしまうから
だから
辛い記憶の原因には
苦しんでいて貰わないといけない
僕を裏切ったことは
僕を殺そうとしたこと
殺人未遂に対して
黙って赦せるほど
僕はお人好しではないよ
死にたいなんて馬鹿馬鹿しい
生きたいに決まっている
そう云って笑う瞳に
光は見えず
ただ口癖のように繰り返す
死にたくない
彼は確実に死に向かっていた
忘れることはできないの?
恐る恐る、問う一つ
それができるなら
こんな不器用な生き方はしていないよ
忘却を逃すつもりはなかった
ちゃんと必要なものを見極めたかった
でも
そう思った時、全部捨てられなかった
怖かったから
そこからどうも僕は
忘却を逃してしまったらしい
仕方なく選んだのは
全てを塗り変えること
上書きの繰り返し
幾ら素晴らしい思い出だったとしても
此処に残った物が悲惨である以上は
事実を構築している要素を
視界から消さない限り
命を喰い潰し続ける
それは
死なない為に塗り変え続ける
延々と続く疑似忘却なんだ
彼はこの後死んでしまう
その中に
一枚だけあった
抜け落ちたページ
彼の
一度目の最後の言葉
えのぐが なくなっちゃったよ
『42℃のお題』より
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